Y社は、新入社員のために借り上げ社宅を用意しています。
社宅に入る際には、「会社を辞めた場合には、1ヶ月以内に退去すること。また、入社後6ヵ月以内に会社を辞めた場合には、社宅の解約に伴う違約金を負担すること」を書面で提示し、了解してもらっています。
試用期間の3ヶ月が終了したとき、社宅を利用していた新入社員の1人が、「自分はこの会社の仕事は向いていない」と言って突然、退職届を出しました。
周りは唖然とするばかりでしたが、本人が辞めると言っている以上、仕方がありません。
会社としては、当社の取決めのとおり、社宅の解約に伴う違約金5万円を負担してもらう為、最後の給与から天引きしようとしました。
ところが顧問弁護士から「労働基準法で、給与は全額支払わなければならないと定められている為、天引きはできない」と言われたのです。
結局、最後の給与もその新入社員の銀行口座に全額振込みました。5万円の違約金の支払を督促し続けているのですが、いまだになしのつぶてです。

* 近年、仕事が長く続かず、突然やめてしまう若手社員が増えています。
同じようなケースで苦慮している会社もあると思いますが、わずか5万円の損害金で裁判を起こす気にはならないでしょう。
会社としてみれば、最後の給与から相殺(天引き)するのが最も合理的と思えますが顧問弁護士の言うとおりそれはできません。
この会社では、就業規則で「賃金の支払方法」について、「金融機関等の口座へ振込により支払う」とだけ規定されていました。
もし、「最後の賃金については手渡しすることもできる」という規定さえ付け加えておけば、いったん全額を手渡しして、その場で損害金を支払ってもらうということもできたはずです。
社員の退職時には、こうした金銭的なトラブルが想定されるため、「手渡しすることもできる」という規定は重要になります。
このケースでは、規定の僅かな不備のために会社としてはなんとも悔しい思いをした訳です。