A社で20年間勤めたベテラン社員が、「来月いっぱいで会社を辞めたい」と退職願を提出しました。
有給休暇が残っているため、来月はその消化にあて、会社に来ないつもりです。これでは十分な引継ぎはできません。
来月も少し出勤して、きちんと業務の引継ぎをしてくれないかと頼みましたが、「私には休む権利があります」と言われ、きっぱり断られました。
こうしてその社員は、有給休暇に入ったのですが、会社宛に突然、弁護士を通じて内容証明が送られてきました。
「退職理由は長時間労働で疲労したことが原因なので、会社都合にしてくれ」というのです。
さらにその後、その社員のパソコンから、会社の重要なデータが消えていることが発覚しました。
本人に問い合わせても「データは消去しました」と言うばかり。顧客情報のファイルも消えているため今後のことが心配でなりません。

* 自己都合で会社を辞める社員に対して、かなり翻弄されているケースですが、問題をひとつずつ整理して考えていきましょう。
まず、有給休暇の取得は社員の権利です。業務の引継ぎが不充分なまま退職することになっても、会社がその権利行使を拒否することはできません。次に、退職理由の変更の申し出をしてきた点です。おそらく、失業保険のことを調べていて「自己都合退職」の場合、3ヶ月間は失業手当が支給されず、支給される日数も少ないことがわかったのでしょう。
さらにデータ消失の件ですが、これは大変危険です。A社に限らず、自己都合で退職する社員のデータセキュリティが甘い会社がほとんどです。
これまでは「性善説」に基づいて会社運営が行われてきましたが、これからは、考え直す必要があるでしょう。

① 就業規則に「退職時はきちんと引継ぎを行うこと」を明記する。
② 退職の申出があれば、その内容を確認する「合意書」を作成する。
③ 退職者に対して情報漏えいを禁止する規定を盛込む。

最近では、自己都合退職への対応について、これらの対策が全く不備の場合A社のようなトラブルを招く可能性があるので注意が必要です。